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思考も蕩けそうなくらい、永々と絡んでいたい。 熱くなる吐息に任せてそう、彼の耳に囁いた。 雨が降りそうだからか、やたらと昼間にすでに燈された街の灯は、この鬱蒼と繁る密林の奥にひっそりと佇む我が家には届かない。ここは完全に隔離された密室。 暑いからと開け放したドアや窓など気にすることなく意志とは裏腹に乱れる嬌声を垂れ流す口唇を必至に噛み締めている悟浄の赤く長い髪が、リビングの堅い床の上に綺麗な文様を描いている。灰色と赤とのコントラストに目眩が起きる。上から見下ろすそれになんということもない衝動が訪れるたびに八戒は気が違いそうになる思いを必至に絶えた。 壊して閉じ込めてしまえたらどんなにか楽になれるだろうと。 情事を重ねるたびに襲いくる激動。常はひとりとして、ただひとりとして立っている悟浄がこうして乱れた態を晒すのは自分の前だけだと、こうして縋りつくのは自分にだけなのだと、そんな風に確信していても確認したくて。ときたまに遠くを見遣る彼の目が不安で。 自分以外誰の目にも触れさせない場所へ、自分以外誰をもその視野に映すことない場所へ、悟浄を連れ去りたい。 隣にいたい。 「ずっと…一緒に、いたい」 途切れる呼吸と乱れる髪と揺れる肢体に惑わされた自身の気違った発言だ。そんな風に囁いても叶わないことはわかっているのに。こんな風に泣きそうな表情を晒してみても、ただ彼を困らせるだけだとわかっているのに。 抱き締めた身体の熱さに沸騰しそうで。 この感覚がいつか失われてしまうことがただ恐くて。 「逃げませんか」 誰にも見つからない場所へ、ふたりで。 なににも恐れることのない場所へ、ふたりで。 掻き抱く肢体を強く、抱いて。 「どこに、ッ」 逃げる理由も、ないのに。 噛み締めてくぐもった咽喉で呟く声に喘ぎが混ざる。途切れながらもしっかりと言葉を吐き出す彼の目はいま、どこを見ているのか。 「そう、ですよね」 ただ、不安で。 その視線の先を思い遣るたびに恐くなって。 伝えきれない本心を、絡めた指先を強く締め付けることで伝えられればいいのに。 どれだけ、一緒にいられるのだろうか。 「バカじゃ、ねぇの」 呆れたように吐き捨てられるのに泣きそうな顔で笑っている彼の感情は一体どれが本物だろう。呆れているのか、泣きたいのか、笑いたいのか。 ただ握り返された指先が熱くて。 ただ、しっかりと見詰め返された赤の中に確かに自分が、いて。 引き寄せられた八戒の身体に押し付けられる彼の脈打つ心音が、熱に乱れてうまく言えない彼の本心を伝えてきた。 ただ、ずっと、一緒に、いたい。 |
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