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沁 み る

 木製の頑丈な酒樽が横倒しになって、半分ほど残っていた酒が床に零れていた。閉め切った狭い格納庫に、熟成されたアルコールの強烈な芳香が充満している。
 乱雑に脱ぎ捨てられた服に滲みこみ染めてゆく滑らかな液体。馨りと同様に長いあいだ熟されてきたその一種宝石のような色。
 深いヴォルドー。
「ン…っぅ」
 閉めた扉に押し付けられたサンジが低く呻きを上げて仰け反った。
 金髪が乱れるのも構わず木の扉に強く擦りつける頭を、うなじから挿し込まれたゾロの骨太い手が優しく鷲掴む。そのまま引っ張る強さでさらに上向かされたサンジの、露になった白い首筋。
 薄皮一枚下で疼く命の鼓動。
 浮き出た鎖骨と動脈に舌を這わせ形のよい咽喉仏に噛み付くゾロの、性急な獣のような荒い息遣いが、静かな潮騒に奇妙に調和して夜陰に木霊するほどに響く。
 夜想曲。シンフォニーの美しいノクターン。
 心に沁みこみ惑わす夜の音色。
 口唇にかかるゾロの舌のざらつく感触に鳥肌が立つ。
 色が香りが音が、感触が、快感が、ゾロが。
 沁みこむ。



 自身の居場所がなくなる感覚。
 侵され、喰われ、る。



「ぅあ、…ッ」
 引き攣る身体の奥底で疼くゾロの熱い脈動に、気が違いそうになる。脳は目まぐるしく回転して、理性を粉々に轢いては猛ったエネルギーを欲に与えて。
 肥大する本能。
 深く挿し込まれて息もできない。
 吐いたら吸えない、吸ったら吐き出せない。
 もがく肺胞、喘ぐ吐息。
 必死に差し伸べた手は虚しく空を掻いたかと思うと掴まれて縫い止められて。
 口唇が重ねられて吹き込まれる。
 ゾロの吐いた呼気を吸って、その色に染まった息を吐く。
「ッ…は、ぁ」



 中空に懸かる新月だけが、消えた目ですべてを深遠に見ていた。

HIDEOUT1】蜘蛛さまへ
リク:ゾロサン
初めて書いたゾロサンです。大人な雰囲気を目指したのですがもうなんかごめんなさい。蜘蛛さまはリアルでも友人であるのでたいへん快く受け取ってくださいました。ありがたいどころか申し訳ない感じです。いやほんと。
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